22.シドニーでやると決めた3つの野望
とりあえずシドニーでやろうとしていた地元の店で仕事をGETするというのは出来た。
そしてオレが労働時間でレニーと交渉したのは他に2つ。やろうと決めていた事があったからだ。
1つは授業料が安く、小人数制で、会話ではなくTOEIC対策の英語の学校に入る事。
そしてもう1つは今度はフットサルでなく普通のサッカーを地元のチームに入ってやるということ。
この3つがこの町で必ず実行しようと決めていたことだ。
1つ目の学校の方は色々歩き回り情報を集めて条件の合うところを探した。
町から20分ほど離れたところにあるCHASTWOODというところだった。
仕事が終わってからの夜間学校だった。
サッカーのほうは簡単にいかなかった。
電話帳で近くにあるクラブチームに電話をして断られたり待ち合わせたのに場所に来なかったり
年齢制限に引っかかってしまうのでダメだったり…
一度、哀れに思ったのか違うチームを紹介してくれるというのでそのチームに出向いてみたら「聞いてない。ウチに空きはない」と言われたり…
でも一番頭に来たのはオレを見た時の彼らの反応だった。
“25歳で、アジア人で、サッカー出来んの?”
そういうふうに彼らの目は言っていた。
ものすごく悔しかった。
絶対オレのがおまえらよりもウマイわー
と思って諦めないで他のチームを歩き回った。
この勘違いがなければオレはシドニーであんなに熱いサッカーを味わうこともなかったんだろうなー…と今は思う。
忘れもしないあれは6件目のチームだった。
その週の水曜日の夜、メンバーを募集してるチームがあると聞いて集合するコートまで家から歩いて向かった。
工場がたくさん並んでる地区を歩いた。
人影も全く無く、真っ暗だった。
かなり怖かった。
ボールをネットに入れていたので、何かあったらすぐヌンチャクがわりに武器になるななんて考えていた…。
「アチョーーー!!」
なるかー!?ゴムだぞゴム。
でもいざとなったら本気で武器となるのはソイツといかさまカラテだけだった。
そんなこと考えなきゃなんないほど本当に暗くてヤバそうなとこだったんだから…
しかも…
コートに着いたらチームなんて集合してないで「今週の土曜に試合があるのでまたここに来な」とコートの管理人のおっちゃんにさらっと言われた。
そんなー。
…おっちゃん。これだけ怖い思いして来て、
そんなー…
帰りに追いはぎにあったら恨んでやるー…
25にもなってチビッたら恨んでやるー…
鬼ダッシュで帰った。
そしてその週の土曜日。
あの時のおっちゃんは見当たらずまたガサネタかーと思いながらもそこに来ていた数チームに声を掛けた。
どのチームにも「そんな募集ウチではしてない」と断られた。
”やっぱ無理なんかなあ”とヘコみながら探していたら一件だけ難しい顔をしながらもオレの話を聞いてくれるマネージャーがいるチームがあった。
彼はMarrickville Red Devilのジョージと名乗った。
チームは全員で30人くらいいた。
彼も最初はやはり”出来んの?”という顔でオレを見ていたがこの時のオレはもう後がないと思ってなかなか引かなかった。
「オレの蝶々サンバ見たくない?
ジグザグサンバ見たくない?」
あんまり見たくありません。
意味わかんないし。
すると彼は哀れに思ったのか”…今日は来週から始まるリーグ戦の前の練習試合だ。
もしかしたら出場できるかもしれないよ”と言ってくれた。
本当に!?…すてきー。ジョージ素敵すぎるー。
その髭がイイーーー。
オレはすぐさまジャージを脱ぎゲームシャツに着替え一人練習を始めた。
皆が練習してる外でいつもより派手に走り、派手な技を使い精一杯アピールした。
そしてその時が来た。
後半に入ってすぐそのチームの赤いユニフォームに着替えてくれと言われた。
とうとう出番がやってきた。
緊張していた。
このゲームで結果を見せなければチームには入れないと思っていたからだ。
そして後半の途中からフォワードで出る事になった。
なんだか練習の時から地に足が着いてないような気がしていた。
気持ちのせいなのか、かなり久々だったからなのか。
どんなプレーが出来ていたのか正直、全く覚えていない。…一ヶ所以外は…
残り時間も少なくなった時、味方のミッドフィルダーがボールを持った。
オレは”こっちに出せ”というジェスチャーで思いきり空いてるスペースに走り出した。
それを見ると同時にそのプレーヤーはオレの前方めがけて大きくボールを蹴った。
オレのかなり前にボールは落ちた。
相手のディフェンダーも必死にボールを追いかけた。
走ってる途中で気持ちだけが前にいってて足がなんか変だなあと思っていた。…次の瞬間、
足が空回りして豪快にコケていた。・・・・
やってもうたー….こんな大事なときに…
頭が真っ白になった。
頭を上げるとディフェンダーがボールに追いついてるのが見えた。
試合が終わった。
かなりブルーだった。
皆が着替えて帰りの準備をしてる時も一人下を向いていた。
あれはアカンやろーなあ…
諦めて着替え終わるとすがるような気持ちでジョージを見上げた。
すると。。。
「来週からリーグ戦が始まる。水曜日も夜から練習があるから来てくれ!」
ジョージはニッコリとそう言った。
えっ。うそ?…あんなヘマしたのに?本当に?…
ジョージ。おまえってヤツはー…
おまえってヤツはー…すてきー。ちょび髭バンザーイ!!
やっぱねえ…見る人が見たら分かっちゃうんだよね。
光るプレーって…オイオイ。
あのコケ方プロっぽかったもんね…普通あんな豪快にいかんもん。
…やっぱりあの、犬が飼い主にするようなすがる目が効いたのかな?
ウルウルした感じが…
ああサッカーできるならいいさっ!!ポチでも何でも呼んで!!
でも、とにかくものすごく嬉しかった。
ようやく地元のチームの一員になったんだ。