17.初めての救急車・ストライカーに危機一髪!!
2月が過ぎた。
そろそろ次の町シドニーへ旅立つ頃かなと思っていた。
そんな時日本に残して来た彼女が、2月末に日本からこっちに遊びに来るという話が上がった。
オレは有頂天だった。
とにかく毎日、早くその日が来ないかと願った。
向こうの両親との問題もあったけど
電話で直接話をして結局なんとか来れる事になった。
彼女が来たら観光名所に寄ってシドニーに下り
オレはそこに留まり生活。
彼女はそこから帰国という予定だった。
泊まる所やバスの予約などを完璧にこなした。
そんな珍しくマメな自分に寂しさを見せつけられた様で変な感じだったが嬉しくもあった。
とにかく彼女が来るまでは、仕事を続けようと思っていた…のだけど…
仕事を辞める2日前になって事故が起こった。
その日もレストランは盛況で店は10時で閉店したけど
洗い物は山積みのまま11時になろうとしていた。
ようやく最後の皿を洗い終わり、溜まったゴミを捨てに地下へと降りて行った。
その日のゴミの袋はそうとう重くて、ほぼ引きずっている状態だった。
捨て場まで来て重かったので勢いをつけて投げた。
「スパッッ」
「…んっ?」
左ふくらはぎに鋭い痛みが走った。
見ると今まで見た事のない様なヘッコミが足にある。
スッパリ切れていた。
見た事がないだけにヤバイと思い無意識に戻そうと傷口を両手で押さえた。
(そんなんで戻る訳ないんだけど…動揺してたんでしょう。)
どうやらゴミの中に割れた皿かガラスが混じっていて
袋から飛び出しオレの黄金の左足を襲ったらしい。
(後で日本のサッカーチームの奴らにそれを言ったら切れたままのが
左蹴れる様になったんじゃねー?と言われた。…ハイ左は苦手です。)
引きずりながら店に戻って「バンソーコーかなんかありませんか?」
と聞きくと「どうした?」と職人の人が寄ってきて傷口を見ると
「おまえコレダメだよ。・・・今すぐ縫ってもらわないとサッカーなんかできなくなるぞ」
と脅しをかけた。
サーっと血の気が引いた。
たぶんその時ばかりはいつもの”ガングロ“から
“美白!?”に変わっていたに違いない。
だから出血がかなり少なかったのかもしれない。
でもその職人さんの応急処置はかなり手際のいいものだった。
(やっぱり包丁で切ることもよくあったのですごく詳しかった)
すぐにタオルで傷の上の膝下をぎゅっと縛ると横に寝かせた。
彼は”傷口に打つ麻酔がハンパなく痛く、しかも何本も打つ。”
と脅すのも忘れなかった。
そのままオーナーの車で救急病院へ運ばれた。
日本でもそんな経験はなかった。
診察台に乗ると随分落ち着いてきて看護婦が入ってきても不安よりも見栄が勝り
”全然平気だよ”とアピールするために、笑わせようと必要以上に喋り続けた。
そのオージーの看護婦さんは話を聞いて小さく笑っていた。
(きっと同じような行動をする人もいて見透かされていたんでしょう。)
医者が注射を持って入ってきた時にはさすがに心臓の鼓動は早くなっていただろう。
やっぱり傷口に打つ麻酔は気になって聞いてみた。
「何本打つんですか?」
「一本だよ。」と医者。
ちょっと胸を撫で下ろした。
ところが…
確かに注射は1本ではあったが
それをゆっくりと5箇所くらいに分けて打った。
オイオイ、誰がそんなとこでボケろって言ったんだよ。
自分の頭に麻酔打ってんじゃねえのか?
イヤッ。彼は間違ってないッス……。
「プスッ。プスッ。プスッ。プスッ。プスッ。…んふー。」
(注射・注射・注射・注射そして注射。・・・・・・・・・・・・・・・・・…安堵の鼻息(By オレ)
さすがに声は出さなかったが背中に鳥肌は立っていた。
傷を縫う時もプチッ、プチッという音がなんか嫌だった。
結局8針縫った。
なんとかスーパーストライカーの将来はつながった。
……言っとけ!!
その後オーナーと話をし、どうせあと2日で辞める予定だったので
その日で仕事は終わりとなった。
酒がしばらく飲めなくなったのが辛かった。アホッ