序章:その男24歳、オーストラリアに旅立つ
ワーキングホリデーになぜ行こうとしたのか?!
どうしてワーキングホリデイでオーストラリアに行く事にしたのか。
考えればいくらでも理由は上がってくるけど、単純に言えることはただ1つ。
25歳がリミットということだったと思う。(1997年当時)
“一生に一度だけ下りるビザ“
ただその響きにヤラレ、動いた24歳の男だった。
1997年10月10日、日曜日。
その日は正に秋晴れで雲ひとつなかった。
空が気持ち良いほど真っ青だったのを覚えている。
成田空港まで見送りに今も続けているサッカーチームのメンバーが10数人。
そして当時付き合っていた彼女も来た。
車でも空港に着いてからも彼女は口数が少なく、
オレも平静を繕って必要以上にアホアホだったけど彼女の表情を見ながら胃はキリキリしていた。
雑踏の成田空港に着く。
正体の分からない何かに胸を締め付けられてる感じだった。
昼食は空港内レストランで皆と取ったけど、何も味など分からずただ胃に流し込んでいた。
なんかきっかけがあれば一口ゲロが出そうだった。
ギリギリだった・・・。
数時間後、いよいよ出発の時間になる。
そして…
「それじゃあ行って来る…」と仲間に挨拶をして後ろを向いた瞬間、理解不能な状態になった。
顔をクシャクシャにして泣いていた。
「エッ、なんで?……??????」
自分でもなんでそうなったかわからずパニックになったけどとにかく皆に気付かれないようにその場から離れた。
隣に居た彼女は「いい友達を持ったね」と言ってハンカチを出し「貸しといてあげる。」とオレに手渡した。
「借りとく……」と呟く。
オレは鼻をすすりながら、「カッコ悪ィ…」と漏らした。…
グシャグシャになった男と、やはり同じ様に涙目の女が並んで歩いていた。
(今考えると恥ずかしい…)
南ウィングのエスカレータで彼女と向き合う。
いよいよだ。
最後になって彼女は笑顔で「体に気を付けて。」と言った。
「ありがとう。…行って来る。」とだけ言い、後ろを振り向かずエスカレーターを降りて行った。
この世でたった独りぼっちになってしまった気がした。
機内に入り離陸するまでの間、なんだか妙に現実感のない時間が流れた。
滑走して暫くたつと空港ターミナルの屋上のデッキが見えた。
みんなあそこにいるのだろうか…。
じっとみつめながら色々なことを想った。
数日前に送別会のカラオケで歌った
「星になれたら」が浮かんで来た・・・。
ジェットエンジンの轟音とGを感じながら機体が地面を離れる頃ようやく自分の中にあったモヤモヤが晴れてきた。
妙に興奮していた。
こうして1年間のオーストラリアでの生活がスタートした。