1.ブリスベンはバランスの良い街?!
寝ているのか起きているのかわからないような時間を機内で過ごしぼんやりと窓をのぞくと眼下にまっ青な海が見えた。
いつのまにか朝を迎えたらしい。
心なしか空気も澄んで見えた。
妙に興奮していた。鼻がフガフガいってたかもしれない。
もう鼻孔広がりまくり…。
それからはすっかり目も覚め、ぼんやり窓を眺め続けた。
陸が見え、緑が見え、家や車が見える頃ぼんやりは凝視に変わった。
ゆとりのある国だと思った。家と家,道と道とがはっきりと区別されているのが見えた。
すごい国があるもんだと感心していた。
着陸の時、”ここまで決心して来て、クラッシュなんてするなよ。
たのむぜぇー”と本気で祈っていた。
数分後、コリアンエアーは無事ブリスベン空港に着陸した。
神の存在をちょっと信じ、胸の前で十字なんか切ってみた。
”アーメン・・・”
はい、はい・・・
気合を入れて満面の笑顔を作って臨んだイミグレーションでは、あっけなく通過できた。
タクシーも簡単につかまり、運転手はホームステイの住所もすぐにわかってくれた。
15分ほど走ると町並みが見えてきた。
大きな川を挟んで高層ビルやイギリス文化を感じさせる建物が見えた。
そして川の対面には、この後、散々通うことになる
サウスバンクと呼ばれる緑豊かな公園が見えた。
オレは窓を全開にしてゆっくりと眺めた。
日本にも町の造りがあるけれど、ここブリスベンもこの町の性格が表われていた。
高層ビルはあっても芝生や木々もある。
その間に古風な建物や教会も存在した。
“バランスのいい町。”
それがこの町の第一印象だった。
なんだかわくわくした。
さらに10分ほど走ると日本では考えられないような
広い公園がところどころにある住宅街に入っていった。
そして、ホームステイの家はすぐに見つかった。
日本の番地制と違い,通りに沿って番地が振られているので分かりやすく,通り名と家の外壁に表示してある番号でその家に近づいている事が目でわかった。
かなり長い坂の低い位置にあるその家の前で車は止まった。
建物自体は古いものだったが、白くて大きな木造建ての家だ。
庭は日本では、もう一軒建ちそうなほど広く、バナナの木や見た事のない大きな葉の植物が植えられていた。
家の前にはやはり大きな公園が広がっていた。
タクシーの運転手に礼を言い、ゆるい坂になっている玄関への道を歩いていると突然ドアが開いた。
中から頭を爆発させ、どう見ても今起きましたと言わんばかりの顔をしたショートパンツだけの男の人が素早い動きで現れた。
あまりの勢いに食われるのかと思った。
「やあ よく来た!こんな格好でごめんよ。ギャリーだ」
と彼はこっちに向かって来て握手を求めた。
オレは「ダイです。会えてうれしいです、これからよろしく」とガチガチの挨拶をして握り返した。
運転手との会話で少しリラックスしてたはずなのに、また緊張してしまった。
ハンサムで人の良さそうなオーストラリアの父親との初対面だった。
最初が肝心だと思い強烈な左のジャブ(つかみ)を用意していたのに裸の男を前にタイミングを逃し、カウンターパンチをもらったようだった…。
父さんズルいッス。…いきなり裸に頭・爆発て…
今時、高木ブーだってそんな反則技使わないッス!!
家の中に通してもらい家族の部屋がある1階。
それからリビングとキッチン、そしてオレに用意されてる部屋がある2階を案内してもらった。
家の中は,外観と違いきれいな造りで家具にもヨーロッパ調のものが取り入れられていた。
本物の暖炉の上には家族の写真がたくさん並んでいた。
この国で暖炉が必要なんだろうか?
その時のオレはブリスベン、いやオーストラリアにもちゃんと冬が来ることを知らなかった。(あるっつうの。)
その写真を見ていると、そういえばほかの家族は,どこだろう?という疑問が浮かんだ。
まさか運転手との会話で出たこの国の50%の確率(離婚)をしてしまったのか?
と少しだけ不安になって振り返ると「ヘレンと子供たちは鯨ウォッチングに出掛けていて明日帰ってくる。」と見透かされたような答えが返ってきた。
「それはよかった。」と訳分からない答えを言った。
それから長い廊下のようなベランダに出た。
ここもやはり広く、テーブルと長イスのある屋外リビングといった感じだった。
長イスに座ると奥からものすごい勢いで黒くて4・50cmほどの犬がオレに向かって飛びついてきた。
チワワだ。とても可愛らしい顔をしていた。
しばらくオレのふくらはぎのあたりを嗅いでいたが下の通りに人が通ったのを見つけてけたたましく吠えだした。
そこへ紅茶を持ったギャリーが入ってきて「ジェッシーおまえの友達だよ」と言いそれを制した。
ジェッシーと呼ばれた犬はそれでもしばらく吠え続けていた。
この犬はこんなチビのくせにゴキブリやバッタが来れば、追い詰めてかみ殺すしその昔、ウサギもかみ殺したというギャリー曰く”小さな殺し屋”だった…。
”小さな”って付けても全然かわいく聞こえないんですけど!!
しかもその行為の後は、「Good kill、Jessie!!」とギャリーはよく誉めた。…なんちゅー国?
それから紅茶を飲みながら,ぎこちないながらも家族のこと,オレの家にいる犬のこと,友達のこと、仕事のことなどを小一時間ほど話した。
いつのまにかジェッシーは座っているオレの
膝の上で丸くなっていた。
家の犬もよくそうしてくるので扱いには慣れていた。
ギャリーは,低くやわらかな声で、しかもわかり易いゆっくりとした英語で応じ時折きさくな笑顔を見せた。
相手をリラックスさせる対応だった。
早くもこの家に,この国にこれて良かったと感じていた。
それから彼は気をまわしてくれ「疲れていないか?少し休んだらいい。
下にいるから何かあったら呼んでくれ。」と言って下へ降りていった。
自分の部屋に入ると、未知への興奮のためかやはり疲れている自分に気がついた。
部屋は6畳ほどの広さで中央に中世もの映画に出てくるようなお姫様ベッドが置いてあった。
(*イメージです^^)
天井からレースのひらひらが降りていた・・・・・
ハハハ…ハハ…ハ……………。
髪をグイングインの内巻きカールにしてくれば良かったと思った。
いつか王子さまが迎えに来てくれそうな気がした。
それから深い眠りについた。
ブリスベンでの生活が始まった。