9.インドアサッカーで熱くなれ!!!

毎週金曜日はインドアサッカーに参加した。
語学学校が終わると受付のロビーに集合して
皆でバスに乗りチャイナタウンを抜けてしばらく走ると屋内コートが見えた。
(体育館の大きめなやつを想像して下さい。)
外も相当熱かったけど、中の蒸し暑さはまた格別だった。
蒸し風呂とはこういう事をいうのだろう。
弱火でコトコト煮込まれてる子牛の気分だった。
中はインドア用のサッカーコートが2つに、
これはびっくりだけど,床に砂を敷いたビーチバレー用のコートがひとつ、
3オン3用のバスケコート、それから小さな売店とプール台(ビリヤード)とテーブルセットがいくつかあった。
サッカーコートは5対5用にコートもゴールも小さく周りにはネットが張り巡らされていた。
オレは日本でもフットサル、いわゆるミニサッカーをやった事があったので大体の事は分かっていたつもりだった。が…
大間違いだった…。
まず違うのはオウトオブプレーがない。
つまりコートに際限がない。
ネットに当て跳ね返らせて1人壁パスなんてこともできた。
これは使えると思って最初のうちは喜んでいたが…
ボールが出ないという事は休む時間が全くないということだ。
これは実際サッカーやってる人なら分かるだろう。
ゼエ、ゼエ、ゼエ…
あっという間に息が上がった。
(この後さすがにヤバイと思い、マッチョとバカにしていたラファエルのジムに
オレも入る事になった。…
なぜだか酒 やタバコををやめようという思いはまるでなかった。
(…アンタ、アホやで。)
オレがチームに参加した頃、地元のオージーとドイツ人2人、スイス人1人、オレ,もう一人の日本人ヒデがいた。
彼は元サテライト(2部)Jリーガーとの事だった。
その日オレは初めて外国のサッカーに触れた。
圧勝だった。
ドイツ人二人の内1人は経験者だと分かったがけどもう1人は明らかに素人だった。
しかし彼の予測不可能な超スローでクネクネした動きは相手 を混乱させるのに十分だった。
魔法の呪文の ようだった。
味方で良かったと思った。
しかし何と言ってもこの日圧勝できたのは、ヒデの力だろう。
彼は体がでかいのでパワーがある事は想像できたが、
パワーだけでなくスピードもテクニックもその場にいる誰ともレベルが違っていた。
俺と同じくらいに……
すいません。ウソつきました。
俺はその日は得点ができなくて悔しかったけど、まあやってやれないことないな。
と思っていた。
次の週からもウチのチームは勝ち続けて行った。
ウチの学校からは俺とヒデとドイツ人のミシェール以外は毎週のようにメンバーが変わった。
(語学学校は入学時期というのがないのでどんどん入れ替わりする。)
だからチームプレイというのが特に良かったわけではなかった。
でもそれでも、一人一人のプレイのバランスが良かったと思った。
個人的にも得点を入れたり得意のいやらしいプ レイが機能し始め
水曜日は朝からゴキゲンでユニフォームを着て学校へ行ったくらいだった。
時にはラテン系の熱いチームと乱闘寸前まで白熱した事もあったが2ヶ月も経つと僕達の学校は準決勝まで駒を進めていた。
ここで一つの分岐点が訪れた。
チームの柱ヒデが、可愛がっていた後輩のいた
対戦相手のチーム側で出場すると言い出したのだ。
つまり敵になるという事だ。
「オレらが絶対勝つ。」彼は試合前そう僕に言った。
どんな気持ちで俺がそれを聞いていたかよく覚えていない。
ただここまで来れたのは彼の力によるところが大きいと思っていた俺はヤバイなって感じはあった。
少なくても彼に対抗できるプレーヤーがいないのではないか?とは思っていた。
その日は学校からも何人か応援が来ていて“ここまで来て負けられないな”という思いもあっ た。
試合が始まった。
対戦してみて、彼と勝負してみてやっぱりスゴイ奴だと思った。
一度2人で対決して二人ともハデに倒れた。どっちも本気だと思った。
(少なくても俺はそうだった。)
気が抜けない時間帯が続いた。
どういう試合内容だったんだろう?
自分が2点入れることができた以外どうやって時間が経過したのかはっきりとは覚えていない。
都合のいい事しか覚えてないもんです。
僕達のチームが勝っていた。
ヒデは何も言わず消えて行った。
ウチの学校の人間だけが騒いでいた。
学校の最高責任者バリーも本当に嬉しそうだった。
俺は嬉しいとか達成感というよりもピリピリした空気から開放されて安心したような、もっと味わっていたかったような
・・・なんとも言えない気持ちで呆然としていた。
その後、皆が待つJoJo’sに着き乾杯して
一杯目のビールを飲み終わる頃ようやく”勝った”実感が沸きひとりでニヤッとした。
やらしー。
その晩はロウ家でも喜んでもらい、
いつもの広いベランダでヘレンとギャリーと
いつもよりHAHN・ICEビールを飲んだ。
決勝戦の事はほとんど覚えていない。
ブラジル人のチームという事は事前に聞いていたけど、ここまで違うとサッパリしたもんだった。
彼らはダンスを踊るようにサッカーを楽しんでいた。
間違える事のないステップで。
ほとんどボールを触らせて貰えなかった。
終わってみれば完敗だった。
結局大会2位。
十分な結果に思えた。
何よりも外国での楽しいサッカーに満足していた。
学校のお偉方も皆にメダルが渡された時、満足気だった。
知らない人にたくさん写真を取られて、何だろうと思った。
うわっ、スター扱いじゃんか。
参ったなあー、困るんだよねーそーゆうの……
シャイなんだよね僕。
常に真ん中の位置を死守してカメラ目線だった。
けど後でそれは分かった。
学校の宣伝用パンフレットに使ったらしい。
まったくチャッカリしてらあ。
後日ホームステイのヘレンがオレが移り住んだシドニーにそれを送ってくれた。
その後移ったシドニーでも、もっとスゴイ、熱いサッカーに出会えた。
シドニー編で…。