12.分岐点-ワーホリだから敢えて選んだ道‐
12月に入った。そろそろ自分の学校の卒業が近づいていた。
ヒゲのスイス人リコがオレよりも先に10週間の授業を終え
卒業しようとしていた。
その日はいつものようにJOJO’Sに寄りダウンアンダーという
小さめのクラブで小人数で送別会なるものをやった。
リコはいつもより酔っていて、終わりの頃になると皆が踊り狂ってるクラブで
オレにガッシリと抱きつき頬にチュッとやった。
ちょび髭がジョリっと当たった。
なんだか複雑な心境だったが
“ああ。…本当に居なくなっちゃうんだな”・・・・と思った。
その頃よく流れていたPuff Dadyが歌う
“I’ll be missing you”が妙に頭に浮かんできた。
リコとは始めて会った日からジンとラファエルと4人で飲みに行ったし
文字通り毎日のようにビールを一緒に飲んだ仲だった。
間違いなく初めてできた外国人の友達だった。
飲みすぎて朝から酒の臭いをプンプンさせトローンとした目つきで
クラスに入って来た事もよくあったけど・・・・
とてもやさしそうな顔をして笑う素敵なオヤジだった。
彼の英語の上達の早さにも驚かされた。
実際1ヶ月ほどで上のクラスに移ってしまったくらいだから。
いろんなスイスの友達ができたのも彼によるところが大きかったと思う。
今頃何をしているんだろう…
美味しいビールを飲んでるんだろうか・・・・
まあそれは間違いないだろうなぁ・・・・・。
彼がいなくなりいよいよ卒業が近づき
どうしようかと真剣に自分の今後を考えるようになった。
その前まではジンに「一緒にシドニーに行かないか?」と言われていて
どうせ南に降りようと思っていたので「いいよ」と答えていた。
だけど…
その日はいつものJOJO’Sでいつものようにジン、アヌーク、ダイアンと4人でいた。
くだらないジョーダンを話していた時になんかの拍子にジンに「ダイくん、いつシドニー行く?」と聞かれた。
オレはちょっと迷ったがその頃考えていた事を話した。
「・・・・・実はその件ずっと考えていたんだけど・・・
やっぱりオレ、まだこの町にもう少し居ようかなと思ってるんだ。
ジンには悪いけど・・・・・」と日本語で答えた。
「なんでえ?」とジン(日本語)。
「English please!!」とアヌーク。
するとジンは見た事無いような真面目な顔で
「ゴメンな。アヌーク、今ちょっと大事な話してるから日本語使わせて!」
と返した。
アヌークは訳わからんという感じだったけど「…OK」と言った。
「何でえ?」と再びジン。
「まずなー、オレ調子かまし過ぎて金やばくな ってきてんだよ。
それで今のホームステイがすごくいいとこで格安で延長してもいいよって言ってくれてるんだ。それが1つ。
・・・それとな、これはオレがもっとよく考えてから返事すればよかったんだけど
やっぱり次の町行く時は知ってる人が誰もいない状況からまた始めてみたいんだ・・・・・・悪イ…」と答えた。
ジンは納得がいかないらしく色々言ったけど結局最後には”このオッチャン何言っても聞かんな”と思ったのか
(そうでなかったのかはわからないけど)いつもより早く店を後にした。
悪い事したなという思いはもちろんあったけど、きっとこれが正しい選択になると思っていた。
日本で出来ないことをするためにここまで来たんだ。
またゼロから始めてみたら何か今と違う自分が見えるかもしれない。
約束よりもその気持ちを変えることはできなかった・・・・。
そしてその頃の僕にはその事に対する不安なんて全く無かった。
根拠の無い若さ故の自信が自分の言動を支えていた・・・・。